放射能除染マニュアル(第1版)

放射能除染・回復プロジェクト          2011年7月16日 山田國廣作成
放射能除染マニュアル(第1版)
1.除染原則
1.1 放射性物質を土壌、水、大気中に拡散させないで可能な限り汚染場所から剥ぎとる。
1.2 汚染場所から剥ぎ取られた放射性物質を含むPVA膜、アルファ・デンプン、土壌、植物などは、除染場所周辺の適切な場所(例えば、人があまり近付かないような場所)において安全な状態で一時保管する。
1.3 除染作業に伴う放射線被曝(外部被曝、内部被曝)を可能な限り少なくするように配慮し、作業中の空間線量率積算値を測定し、外部被曝量を監視・測定する。
1.4 除染前後の空間線量率の測定と写真撮影を行い、除染効果の確認と記録を残す。
1.5 除去された放射能汚染物質は東京電力が引き取り、最終的には福島第一原発へ戻す。
1.6 除染に要した経費、人件費、健康的・精神的被害については東電および日本政府が補償する。

2.除染前測定
2.1 測定箇所は、建物外側を構成する土、石、樹木(葉っぱ、幹)、雑草・コケなど植物、敷石、アスファルト、コンクリート、タイル、モルタル、瓦,スレート、樋、庇など材質別に存在範囲を確定して材質の表面(被曝状況把握のため場合によっては50cm、1m高さも測定する)の空間線量率を測定する。測定は、鉛板で囲んだ局所測定と、周囲からの放射線影響を入れた鉛板無しの測定の両方を併用する。

2.2 建物内についても、各部屋を構成する材質別に土間、畳、板、タイル、カーテン、壁紙、ガラス、天井などの表面と、各部屋の床面、50cm、1m、天井の空間線量率を測定する。

2.3 マイクロ・ホットスポットの確認
 住宅敷地内、道路、駐車場、児童公園などの事前調査により、マイクロ・ホットスポットの存在場所はおおよそ分かっている。
 高い汚染が発見されるのは住宅の場合、樋から流れ出した土壌、樋のない屋根の雨だれ跡、枯葉や土が溜まっている樋、落葉や土が堆積している側溝、松などの針葉樹の葉っぱ、コケがある場所などである。中程度の汚染は、敷石、緑地、雑草などである。
 駐車場の場合は、雨水が側溝に流れ落ちる端が、ライン状にホットスポットになっている。児童公園などの場合、滑り台の下、ブランコの坐り台の下のへこみ部分、鉄棒の真下のへこみ部分が高線量ホットスポットになっている。砂場や雑草は中程度に高い線量率である。
これらホットスポットを事前に確認して、作業中は可能な限り近づかないようにすることと、優先的に除染するように配慮する。

2.4 汚染の見える化のための線量率の区分け
 除染作業を安全かつ効果的に行うため、汚染レベルを5段階に区分けして、可能であれば色分けして塗布する。
1μSv/h以下
1~3μSv/h
3~5μSv/h
5~10μSv/h
10以上

3.「固めて取る、剥ぎ取る、除染方法」の基本的考え方
3.1 PVA液塗布の前処理
マイクロ・ホットスポット(2.3で指摘された場所)を確認して、局部的に様々な道具(スコップ、小手、枝切り挟み、布テープ、粘着ローラーなど)を使用して除去する。PVA液の塗布に先立ち、雑草、松などの常緑針葉樹の剪定、落葉やコケの取り除き、小石の取り除きを行う。除去された汚染物質は、土のうに入れ、一保管場所へ安全を確保して保管する。

3.2 剥がし方の原則と剥がし液の特徴
3.2.1 除染方法の基本は、剥がし液(PVA)、アルファ・デンプンによって、①固い表面を有す物については膜を形成して剥がす②土のような柔らかい表面を有する物については固めてから剥がす、という2種類である。
3.2.2 PVAの特徴
 日本における高分子化学の先駆者である京都大学の桜田一郎教授(1904-1986)が京都大学在職中に発明したビニロン繊維の原料である。ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol;
PVA)は、合成樹脂の一種で示性式は(-CH2CH(OH)-)nの重合になっている。
合成樹脂としては特殊な性質があり、分子中にヒドロキシ基(-OH)があるため「温水に溶ける」という特徴がある。 親水性をいかして、バインダー(つなぎ剤)、界面活性剤として使用されている。製造元から濃度を指定して購入することができる。
市販されているものでなじみのあるのは、700mlポリ容器入り(1本100円から150円)で販売されている洗濯のりで「化学のり」、「合成のり」などの消費品名で売られている。PVAの濃度を高めたい場合は、市販されている化学のりを購入して、鍋にいれて30分ほど弱火で焦がさないように煮詰めると2倍以上になる。
3.2.3  アルファ・デンプンの特徴
PVA液の前に販売されていた「デンプンのり」で、現在は粉の状態で販売されている。
粉であるので、散布の際のハンドリングがよく、水をかけるとすぐに固まり始める。PVA液にアルファ・デンプンを入れると、固まる時間が短縮されるので、場合によっては併用も考えられる。
3.2.4 PVA液、アルファ・デンプン以外にも、固め液、膜形成剤として、適切なものが見つかる可能性がある。今後の、研究課題である。

4.放射能で汚染されている材質別の除染方法
4.1 土壌の除染方法
4.1.1 固め剤を使用することの効用
土壌の固め剤はアルファ・デンプンかPVA液を使用する。両方とも、粉の袋入りとポリ容器入り(700cc)が100円(100円均一)で販売されている。
 これらの固め剤を用いることの効用は以下の項目があげられる。
(1)埃などが舞い上がることを防止し内部被曝を防ぐ。
(2)土壌除去時の操作性(スコップなどの操作のなめらかさ)をよくする。
(3)除去した土壌の体積を圧縮する。
(4)除去した土壌の形(長方形)を整え、保管場所体積の無駄な空間を少なくする。
(5)除去した土壌中の放射能を安定的に閉じ込める。
4.1.2 乾いた土の除染方法
(1)乾いた土を、そのままスコップなどで表面除去をすると、微細な埃が舞い上がり、内部被曝の恐れがある。乾いた土では、セシウムが表面の浅いところに蓄積している傾向があり、事前にその深さを確認しておく。
(2)その後に、アルファ・デンプンの粉を土壌表面に散布して、上から水をかけ、表面の土とアルファ・デンプンを混合させながら練る。そのまま、半日ほど乾燥させると、練った部分のみが固まり、それからスコップで除去し、土のうに入れて圧縮し、安全な場所へ保管する。
(3)アルファ・デンプンの代わりに、PVA液を土壌表面にまいてから、スコップで練り上げ、半日程度乾燥させて除去してもよい。アルファ・デンプンの方がPVA液より、土壌が固くなる傾向がある。
(4)乾燥時間を短縮して土壌除去したい場合は、アルファ・デンプン、PVA液で土壌を練り上げた後、すぐに土のうに入れて踏みつけて体積圧縮、型枠へのはめ込みをして、直方体になるようにし、安全な場所へ保管する。
4.1.3 やわらかく湿った土の除染方法
(1)柔らかい土の場合、セシウムは場合によっては表面から10cm下にまで入り込んでいる場合がある。事前に、どの深さまで除去する必要があるか確認しておく。
(2)湿った土の場合、アルファ・デンプンの粉をそのまま土壌に散布して、スコップで除去する深さまで混ぜる。数時間すると土壌は固まってくるので、スコップで型また表面を除去する。アルファ・デンプンの粉の量を多くすると固くなるので、除去しやすくなる固さに合わせて、経験的に粉の散布量を把握する。乾燥時間を短縮したい場合は、アルファ・デンプンの粉を散布して混ぜ合わせた後で、スコップで除去して、土のうにいれ、体積圧縮と直方体型枠入れを行い、安全な場所に保管してもよい。
(3)アルファ・デンプンの代わりに、PVA液を土壌表面にまいてから、スコップで練り上げ、すぐにスコップで除去して、土のうにいれ、体積圧縮と直方体型枠入れを行い、安全な場所に保管してもよい。
4.1.4 砂利の除染方法
(1)土の上に砂利が敷いてある場合、放射能を砂利の表面だけでなく、砂利の下の土にまで達している場合が多い。このような場合、PVA液を散布して砂利表面のセシウムを固定しから、砂利のスコップで除去して土のうに入れて固める。固める際には、アルファ・デンプンの粉を多い目に入れて上から少しだけ水を撒くとよく固まる。
(2)砂利を除去して出てきた、汚染土壌については、上記の「湿った土の除染法」に従う。
4.1.5 根っこなどが表面に出ている土の除染方法
(1)街路樹の下や果樹園などの土壌が放射能に汚染されている場合は、土の除去時に根っこが操作を困難にする。このような場合、まず雑草を除去し、PVA液を散布して根っこの周辺の土を、樹木を傷めないように注意しながらスコップなどで「土をゆるめる」操作をする。
(2)土をゆるめてから、寒冷紗を被せて、もう一度PVA液を寒冷紗の上から散布し、数時間後に乾燥してから寒冷所を剥がす。そうすると、ゆるめた土ごと、除去できる。
4.1.6 田畑、雑草地、空き地などの除染方法
 田畑の場合、上記の「湿った土の除染方法」に従うが、面積が大きいため、機械化を導入する必要がある。機械化については、農業機械を改良して、土のうちで固めた表面だけを「すくい取る」ことができれば、作業被曝を少なくし、効率、能率が大幅にアップする。
農業機械の改良および使用を急ぐ必要がある。

4.2 固くて平面を有する材質の除染方法
(1)木、クッションフロワー、表面が滑らかなコンクリート、鉄板などの表面が放射能で汚染されている場合、濃度が濃い目のPVA液を刷毛で塗り、数時間で十分乾燥させてから、形成されたPVA膜を剥がすと、セシウムは膜に吸着されて除去できる。この際に大切なことは「膜が形成される」ことである。PVA膜は吸着力が強く、逆にそれを剥がすときは剥離力も強い。杉のような柔らかい木の場合、木部の一部が剥ぎ取られる場合もある。膜が均一にできないと、剥離の時に千切れてしまい操作に時間がかかる場合がある。
(2)上記のなめらかな表面を有する材質で、構造上傾斜がある場合工夫を要する。刷毛で塗ったPVA液が斜面に従って垂れてくるので、それを防止しる為には、刷毛で塗った後から寒冷紗を被せて、垂を防止する方法をとる。寒冷紗を被せた場合、PVA液の膜の形成力が弱くなる傾向があるので、剥離力も寒冷紗を使わないときに比べて若干弱くなる。しかし、寒冷紗剥離の際の操作性はよくなる。

4.3 屋根の除染方法
(1)屋根の除染は高所にあるため、作業に危険性が伴う。まず、足場の確保が必要となる。移動式の足場などレンタルで借り受けて、屋根の高さまで足場を確保する。さらに、屋根の上の作業には安全ロープなどで滑り落ちることを防ぐ。
(2)屋根の材質は、瓦やスレート葺きの場合が多い。基本的には、「傾斜があり滑らかな表面を有する材質の除染方法」に従うので、屋根の材質にPVA液を刷毛で塗布して寒冷紗を被せて固めてから剥ぎ取る方法が中心となる。
(3)ただし、高所の作業であるため、作業性をよくする必要がある。寒冷紗を屋根の瓦など大きさに切断してPVA液にあらかじめ侵たしておき、それを1枚ずつ屋根の部材に張り付けて、乾燥させてから剥ぎ取る方法などが考えられる。
(4)いづれにしても、屋根の除染については危険性が伴うため、高所作業などの専門性を身に付けた人が実施する必要がある。

4.4 固くて凹凸のある表面材質の除染方法
(1)アスファルト道路や駐車場では、砂利をタールで固められた構造であるため、表面に凹凸や小さな穴があいている。このような表面にセシウムがへばり付いている場合、凹凸表面や穴の中にまで固め剤を入れこみ、その後に固めて剥ぎ取る操作が必要になる。
(2)アルファ・デンプンを凹凸部や穴が埋まるまで散布してから寒冷紗を被せ、そのうえから水を散布する。固まってきたらそのうえから少量のアルファ・デンプン散布して寒冷紗とアルファ・デンプンを一体化させる。そして、十分乾燥させてから、寒冷紗を剥ぎ取ると、凹凸部や穴に入っていたセシウムも剥ぎ取れる。
(3)凹凸部のセシウムが強固にへばり付いている場合は、事前に湿らせたブラシで擦りゆるめてから、上記(2)の操作を行う。ブラシで擦るさいに溶剤などを使えば、効果的になる可能性もあるので、今後の研究課題である。

4.5 敷石の除染方法
(1)敷石の間には土が入りそこから雑草やコケが生えている場合が多い。敷石の間の雑草、コケ、土はマイクロ・ホットスポットを形成している場合が多い。小さなコテなどで丁寧に除去しビニールテープなどで除去後の雑草、コケ、土を吸着して除くことが大切である。除去したそれらの混合物は、PBA液をかけて土のうに入れて、固めてから安全な場所に保管する。
(2)敷石の間の汚染物が事前に除去された後は、敷石表面の除染を行う。この方法は、
上記の「固くて凹凸のある表面材質の除染方法」に従う。この場合、アルファ・デンプンは表面だけでなく敷石の間にも入れこみ、残っているセシウムを吸着させて剥ぎ取る。

4.6 植物の除染方法
(1)3月15日~16日にかけて放射能雲が到来し雨が降って、放射能汚染が地上に固定された。そのとき、最初の汚染を受けとめたのは森林、公園、街路樹なんど高木である。これらの葉っぱの表面、幹の表面、それに樹木の下に流れ出した放射能が堆積した雑草や土壌はマイクロ・ホットスポットを形成している。家庭の敷地内、公園、学校、河川敷などにある芝生、雑草地、花壇などの植物及び土壌もマイクロ・ホットスポットを形成している。駐車場の側溝手前の雑草、大きな道路の歩道脇にある段差の雑草などは、高濃度の汚染がよく見出される。
(2)3月15日の段階で、葉っぱを付けていた常緑樹(とくに住宅地の近くの松、杉、ヒノキ、カイヅカイブキなんど)は、放射能を受け止めて汚染されている可能性が高いので、葉っぱを剪定する。
(3)欅の街路樹など、大木ほど放射能を受け止める面積が大きいため、樹木の正面や街路樹下の土壌、雑草を除染する必要がある。除染方法は「根っこのある土壌の除染方法」に従う。
(4)芝生、雑草、コケなどは、根っこから除去する。除去した植物は、枝切りバサミなどで小さく裁断して土のうに入れ、PVA液を散布して、体積圧縮と直方形を形成してから、安全な場所に保管する。植物は、体積が嵩張るため、圧縮と形を整えることが、保管場所の節約のため大切である。
(5)芝生や雑草を除去した後の土も汚染されているので、その場合は「湿った土の除染方法」に従う。

5.除染された放射能汚染物質の一時保管場所及び保管方法
5.1 除染された放射能汚染物質は、除染場所敷地内から持ち出さず、敷地内保管を原則とする。
5.2 敷地内に土壌部分があれば、そこに穴を掘り(可能であれば1m程度)、ブルーシートを敷いて、そこへ土のうに入れた汚染物質を可能な限り体積圧縮を行ってから投入して、ブルーシートで覆い、その上から汚染されていない土を被せ、表面の線量率レベルを測定する。線量率が1μSv/hを上回る場合は、鉛版の蓋をする。

6.事後測定
6.1 除染の効果を客観的記録として事後に残すため、事前に測定した主要な場所の空間線量率については、除染後にも測定し、除染効果を確認する。測定は、鉛版で囲んだ局所測定と、周辺からの放射線影響を入れた測定に2種類を併用する。
6.2 事前、事後のそくてい結果は、電子情報で記録に残す。

7.除染経費の建て替えと請求
7.1 本来、除染費用は東電及び政府が負担すべきである。しかし当面、そのことが認められるまでは、住宅などの所有者が自ら建て替え、後日東電と政府に、請求書および領収書のコピーを送付する。
7.2 除染に必要な購入物品については、全て領収書を入試して、保管しておく。
7.3 除染に要した人件費(人数×時間×時間給)は、必ず記録に残し、請求する。
7.4 助成費用が建て替えられない家庭などの場合を考え、除染資金の別途確保を行う。
 この方法としては、助成金申請、カンパ要請、除染トラストの立ち上げなどが考えられる。
 
8.法的根拠
原発事故の補償に関する法律は、推進を建前とし、事故は起こらないことになっていたので、今回の福島第一原発事故については「不備」そのものである。それゆえ「市民が自ら被曝をさけるためやむにやまれず除染を行う」という行為に関する法的根拠は、おそらく憲法第25条「すべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」という生存権が最後に残ってくると考えられる。現在の福島市を含めた、放射能汚染都市の状況は、憲法25条に違反していると言える。法的根拠については、弁護士とも相談をし、今後より詳細に検討を加えていく必要がある。

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