河北春秋
自然の巡りに歩調を合わせ、命の営みに沿って安全なものを作る。正直に、誠実に。宮城県丸森町にある「丸森かたくり農園」の北村みどりさん(54)はそんな思いで自然農の産直を手掛けてきた
農を志すきっかけはチェルノブイリ原発事故だった。勤めを辞め、家族で神奈川から移り住んで20年目のことし、大切な土が、守り抜いてきた安全の自負が、いともたやすく放射線に汚されてしまった
自信のない作物は売れないと、ことしは自家用以外の作付けをやめた。つらい、悔しい。でも嘆いてばかりいられない。宮城県南で有機農の産直を営む仲間8軒で「みんなの放射線測定所」をつくることにした
「みんな」は生産者に限らない。家庭菜園の土や野菜、庭先の果樹、店で買った食品など、誰でも持ち込んで測れる場所にする。被ばくを少なくする料理法や生活の知恵を交わす場にもしたい
資金を出し合って高価なドイツ製の測定機を注文した。12月の開設を目指す。「3・11以前には戻れない。ならば放射能ときちんと向き合い、よりよく生きる方法をみんなで考えなくちゃ」。その気概に励まされる
安全でうそのないものがどれほど得難いか思い知った今、これ以上失う愚を重ねたくはない。自然との共生を探る誠実な暮らしの中に道はあるはずだ。
2011年09月27日火曜日