被災者支援法 線量基準定めず

毎日新聞の記事の転載です。


東日本大震災:福島第1原発事故 被災者支援法、線量基準定めず 福島33市町村に限定
毎日新聞 2013年08月30日 東京朝刊

 東京電力福島第1原発事故に対応する「子ども・被災者生活支援法」で、復興庁が支援対象地域を線引きする放射線量基準を決めないまま、福島県内33市町村を対象地域に指定する基本方針案をまとめたことが分かった。住民からは「基準作りを回避し、支援の範囲を不当に狭めるものだ」との批判が出そうだ。【日野行介、袴田貴行】

 基本方針案によると、対象地域は「原発事故発生後に相当な線量が広がっていた」とする同県東半分の自治体のうち、避難指示区域やその周辺を除く33市町村。具体的な支援策は、復興庁が3月発表した「支援パッケージ」の拡充を検討するとした。さらに、同県の西半分の会津地域や近隣県を「準支援対象地域」と位置づけ、個人線量計による外部被ばく線量調査などの支援を実施する。

 だが、法令は一般人の年間被ばく線量限度を1ミリシーベルトと定めている。原発事故後に広く指標とされてきた空間線量でこの1ミリシーベルトを基準としたなら、支援対象範囲は福島県以外にも及ぶ。近隣県にも局所的に線量の高い地域があり、福島県内の一部に範囲を限定することに対して反発は必至だ。

 また、災害救助法に基づく県外への避難者向けの民間住宅家賃補助は、昨年末に新規受け付けが打ち切られた。支援法による復活を求める声もあるが、基本方針案には含まれない。

 一方、原子力規制委員会は28日、復興庁の要請を受けて専門家チームを設け、関係省庁を通じて支援対象地域の個人線量データ収集を始めた。住民一人一人の個人線量は空間線量より低く出る傾向がある。国はこの点に着目し、低いデータを基に住民に帰還を促すとともに、線量に基づかない対象地域指定を科学的に補う狙いがあるとみられる。

 支援法は昨年6月、議員立法で成立。原発事故に伴う年間累積線量が一定の値以上で、国の避難指示区域解除基準(20ミリシーベルト)を下回る地域を支援対象とする。だが一般人の被ばく限度との整合性をどう取るか難しく、線引きによっては避難者が増える可能性もあり、復興庁は基本方針策定を先送りしてきた。福島県などの住民は早期策定を求めて東京地裁に今月提訴した。

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 ■解説

 ◇「広い支援」ゆがめられ

 復興庁は「子ども・被災者生活支援法」の支援対象地域を確定する根拠となる放射線量の基準作りを見送り、福島県内の自治体単位で対象地域を決める方針に切り替えた。線量によらず支援範囲をまず限定する手法は本末転倒で、支援が不十分だった自主避難者らも含め広く支援するという法の趣旨をゆがめるものだ。

 ゆがみは他にもある。基本方針案に盛られた住宅支援策だ。県外への避難者向けの家賃補助について新規受け付けを認めず、一方で、自主避難者を多く出している福島県中通り地域で公的賃貸住宅の整備を進めるという。避難を事実上の権利として認める支援法の趣旨を骨抜きにしている。復興庁の要請に基づく個人線量データ収集も、関係者は「支援法には直接は関係ない」というが、帰還促進に重点を置くものだ。

 基本方針案は復興庁がパブリックコメントで意見を聞いたうえで、閣議決定される見込みだ。しかし同法は被災者の意見を施策に反映させるよう規定している。成立から1年2カ月も放置し、密室で協議した末に突然決定するのは乱暴に過ぎ、そもそも法の趣旨に反する。広範な線量データに基づく複数の選択肢を示した上で、原発事故の被災者支援のあり方を国民で論じ合うべきだ。【日野行介】

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 ◇基本方針案 骨子

・従来対象だった福島県民に加え、近隣県でも外部被ばくを把握

・家族と離れて暮らす子どもへのスクールカウンセラー派遣

・公営賃貸住宅への入居の円滑化

・福島県の子どもを対象に県内外での自然体験活動を実施

・学校給食の放射性物質検査を充実

・避難者が多い地域の就労支援拡充


被災者支援法:線量基準定めず、福島33市町村に限定
毎日新聞 2013年08月30日 02時38分(最終更新 08月30日 02時44分)

支援対象地域となる33市町村(クリックで拡大)

支援対象地域となる33市町村

 東京電力福島第1原発事故に対応する「子ども・被災者生活支援法」で、復興庁が支援対象地域を線引きする放射線量基準を決めないまま、福島県内33市町村を対象地域に指定する基本方針案をまとめたことが分かった。住民からは「基準作りを回避し、支援の範囲を不当に狭めるものだ」との批判が出そうだ。【日野行介、袴田貴行】

 基本方針案によると、対象地域は「原発事故発生後に相当な線量が広がっていた」とする同県東半分の自治体のうち、避難指示区域やその周辺を除く33市町村。具体的な支援策は、復興庁が3月発表した「支援パッケージ」の拡充を検討するとした。さらに、同県の西半分の会津地域や近隣県を「準支援対象地域」と位置づけ、個人線量計による外部被ばく線量調査などの支援を実施する。

 だが、法令は一般人の年間被ばく線量限度を1ミリシーベルトと定めている。原発事故後に広く指標とされてきた空間線量でこの1ミリシーベルトを基準としたなら、支援対象範囲は福島県以外にも及ぶ。近隣県にも局所的に線量の高い地域があり、福島県内の一部に範囲を限定することに対して反発は必至だ。

 また、災害救助法に基づく県外への避難者向けの民間住宅家賃補助は、昨年末に新規受け付けが打ち切られた。支援法による復活を求める声もあるが、基本方針案には含まれない。

 一方、原子力規制委員会は28日、復興庁の要請を受けて専門家チームを設け、関係省庁を通じて支援対象地域の個人線量データ収集を始めた。住民一人一人の個人線量は空間線量より低く出る傾向がある。国はこの点に着目し、低いデータを基に住民に帰還を促すとともに、線量に基づかない対象地域指定を科学的に補う狙いがあるとみられる。

 支援法は昨年6月、議員立法で成立。原発事故に伴う年間累積線量が一定の値以上で、国の避難指示区域解除基準(20ミリシーベルト)を下回る地域を支援対象とする。だが一般人の被ばく限度との整合性をどう取るか難しく、線引きによっては避難者が増える可能性もあり、復興庁は基本方針策定を先送りしてきた。福島県などの住民は早期策定を求めて東京地裁に今月提訴した。

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